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正しい産婦人科の選び方

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「安定期」にまつわる誤解

妊娠中の旅行を、最近ではマタニティ旅行、略して「マタ旅」というそうです。

何かと制限の多い気詰まりな妊娠期間のリフレッシュに、もっと率直にいえば、子どもが生まれたらしばらくは旅行もままならないから今のうちに、ということで旅行を計画する妊婦さんとご家族が多いようです。

10数年ほど前からは旅行会社やホテル業者が、交通機関の移動の負担が少ない、家族風呂で人目を気にせず入浴できる、エステやヨガを受けられるといった妊婦さん向け旅行プランを盛んに売り出し、たいへんな人気を博しているといいます。

産婦人科医の間でも、「安定期であれば旅行に行ってもよい」という人もいて、それが一種“お墨付き”のようになって、妊娠中の旅行が広まったと考えられます。

実際に私も、健診などで妊婦さんから「安定期になったら旅行をしてもいいか」「安定期なので、運動をしたい」といった質問・相談をよく受けます。しかし私は、以前から「妊娠中の旅行はお勧めしない」と一貫して妊婦さんたちに伝えています。その理由は、やはりリスクが高いからです。

一般に「安定期」というのは、妊娠16週(妊娠5カ月の初め)頃から、妊娠27週(妊娠7カ月の終わり)頃を指します。実はこの言葉は、今のような医療機関での健診や、超音波検査などがない時代に生まれた曖昧なものです。

昔から、妊娠12週以前は流産が多い時期とされていて、この頃を過ぎて胎児が無事に育って妊娠16週頃になると、母体と胎児をつなぐ胎盤の形態が構築されます。昔の人は、この頃に胎児を育てる環境が整ったということで、妊娠が「安定した」と考えたのではないかと推測します。

しかしこの「安定期」という言葉に、医学的な根拠は何もありません。

産婦人科の専門用語や定義には、「安定期」という認識も言葉も、存在しません。事実、胎盤が完成した後でも何らかの理由で出血が続き、胎盤にダメージが生じて流産・早産を起こすケースはあります。むしろ胎盤ができてからの異常や出血は、早産や常位胎盤早期剝離といった大惨事になることもあり、母子双方にとってリスクが大きいとさえいえます。

つまり「安定期」とは、ただ単に胎盤が形成されてきた時期を指すのであって、「少々無理をしても大丈夫な時期」でも、「ノーリスクの時期」でもないのです。そのことを正しく理解してほしいと思います。

万一、旅行先で妊産婦が救急搬送された場合、死産や母体死亡になる確率が通常より高いことが報告されています。「ちょっと気晴らしに」と出かけた先で、赤ちゃんや母親の大切な命が失われるような悲劇は、あってはならないのです。

小川 博康
監修:小川クリニック院長 小川 博康医学博士/日本産科婦人科学会専門医

昭和60年 日本医科大学卒業。同年 同大学産婦人科学教室入局。 平成9年 日本医科大学産婦人科学教室退局後、当クリニックへ帰属。 大学勤務中は、一般産婦人科診療、癌の治療を行い、特に胎児診断・胎児治療を専門としていた。「胎児に対する胎内交換輸血」 「一絨毛膜双胎一児死亡例における胎内手術」など、世界で一例しか成功していない手術など数々の胎内治療を成功させている。

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