妊娠期間中は、妊婦さんの体内はさまざまな要素が大きく変化しています。
たとえば子宮は、妊娠前の子宮は縦約7㎝、横約3〜4㎝で重さは約40g。ちょうど鶏の卵を少し平たくしたような大きさですが、妊娠後期になると縦が約36〜40㎝、横が約24㎝になり、重さでは20倍、子宮内部の容積では実に2000〜2500倍にもなります。
妊娠中にはホルモンバランスも大きく変化します。
妊娠が成立するとhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)ホルモンの分泌が急激に増え、子宮の収縮を抑えて妊娠を維持するように働きます。妊娠4〜5カ月になってhCGの分泌が減ってくると、それに代わるように2種類の女性ホルモンである、エストロゲンとプロゲステロンの分泌が増えます。
エストロゲンは子宮や乳房を大きく成長させ、子宮頸管の粘膜を増やす働きがあります。妊娠するとむくみやすくなるのは、エストロゲンに水分を保持する作用があるからです。
一方のプロゲステロンは、子宮の収縮を抑える、体温を上昇させる、乳房を大きくするなどの働きがあります。ほかに血液や血圧、心拍、呼吸なども変化しています。
妊娠中の血液は、量が通常の1・4倍、1500㎖ほど増加するほか、血液成分も変わります。血液中の水分(血漿量)は1・5倍になる一方、赤血球量は約1・2倍にしかなりません。
このため、妊娠中は貧血が強くなる可能性が高くなります。特に血液量が増える妊娠の後半は、鉄分の多い食品を多くとり、貧血予防に努める必要があります。
血圧は、妊娠5〜6カ月ごろまではやや下降しますが、妊娠後半になると一転して上昇傾向になります。当初、血圧は問題ないと思っていた人でも、妊娠後期になってふと気づくと血圧が上がり、妊娠高血圧症候群になるケースも少なくないので、注意してください。
さらに心拍(1分間に打つ心臓の鼓動の回数)は通常は80回弱のところ、妊娠3〜4カ月から増え始め、7〜8カ月には90回を超えるようになり、心臓が1分間に押し出す血液量も40%近く上昇します。呼吸回数も15%も増えて、少し動くだけで息が切れたりします。
このように妊娠中に体内で起こる変化は、とてもダイナミックです。外見的にはそれほど大きな変化に感じられなくても、体のなかは「2週間経つと別人」というくらいに、変わっています。これらはすべて体のなかで赤ちゃんを育てるための適応ですが、変化が非常に大きいため、少し油断をすると「異常」や「病気」に傾きやすいのも事実です。
そこで私は、いつも「数週間先を見て行動するように」と妊婦さんにお話ししています。
今の体重増加のペースだと太りすぎるから、今からセーブしておこう。血圧がこれくらいだと、妊娠後期にさらに上がる可能性があるから、塩分に注意しよう。最近お腹が張りやすくなったから、そろそろ体調に合わせて夜は早く休もう、というように先々の変化を想像して早めに自己管理をしていくことが、リスクを回避する重要な鍵になります。