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正しい産婦人科の選び方

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産科の救急対応は“治療のスピード”が鍵を握る

妊娠・出産は自然現象です。いつ何が起こっても不思議ではありませんし、ちょっとした気のゆるみ(と妊婦さんやそのご家族には思われるようなこと)やトラブル、タイミングのズレなどが、取り返しのつかない疾患の発生につながる可能性があるものなのです。

もちろん、そんな取り返しのつかない疾患が起こらないように妊婦さんをマネジメントし、指導するのが産科医の役割です。それでも自然現象である以上、「100%」「絶対」はありえません。つまり、起こってしまった後の救急対応もまた重要なのです。

今回は、産科の救急対応について、実際に最近あった事例をご紹介したいと思います。

ある日、妊婦さんが、当院に救急搬送されてきました。夜勤の時間帯です。そのとき妊娠週数は妊娠31週。急いで診察をすると、子宮口はほぼ全開大、胎胞の向こうに赤ちゃんの足と臍帯(へその緒)が見えています。

通常、赤ちゃんは頭を下にした状態で子宮の中にいますから、足が見えるというのは逆子です。また分娩の前に臍帯が出てしまうのは、臍帯脱出といいます。赤ちゃんに栄養や酸素を運ぶ命綱である臍帯が先に出てしまうと、臍帯が圧迫されて赤ちゃんに酸素が届かなくなり、すぐに胎児死亡に陥ります。未熟児の逆子は分娩に高度なテクニックが必要です。その上、臍帯脱出寸前であるというのは、非常に危険な状態で、まさに一刻を争う状況です。

そこで私たちはスタッフを総動員して、すぐさま対応をスタート。

当院の産科・新生児科の医師の対応と同時に、こども医療の専門病院にも連絡を取り、来院していただき、当院で児の娩出後の初期対応していただく準備を進めました。

しかし、帝王切開の準備中に手術室で破水が起こったのです。

かつて大学病院で救急医療を行っていたときと同様、すぐ経膣分娩へ方針を変更し、臍帯を子宮に押し戻す一方、胎児の足から逆子を娩出術で牽引し、産道から胎児を無事に娩出することに成功しました。当院のスタッフ、胎児の娩出後すぐ駆けつけてくださったこども専門病院のスタッフの対応の甲斐あって、未熟児ではありましたが赤ちゃんは一命を取り留め、幸い大きな後遺症もなく成長されています。

ただ、もしこの妊婦さんが救急車で搬送中に分娩となったり、最初に一般の病院の救急に運ばれていたりしたら、おそらく赤ちゃんは助からなかっただろうと思います。

産科医であっても逆子の対応の経験が少なければ、まず足から未熟児の逆子を娩出するという処置はまずできません。帝王切開を行うにしても、この場合、その手術の準備をしている間に胎児の命の火が消えてしまったはずです。それほど産科の救急は、その場での素早い診断と適切な処置、高い技術が求められる領域なのです。

このほか、分娩時の救急対応でもっとも多いのは、「産科危機的出血」です。

分娩時に何らかの理由で出血が止まらずに大量出血になると、妊婦さんは出血性ショックを起こし、命を落とすことも珍しくありません。

高い技術をもつ産科医は、分娩時の出血に対して、いくつもの対応策をもっています。また、帝王切開の場合でも出血が続くなら、子宮に入ってくる血管を止める。それでも出血が続くときは、さらに上流の骨盤の奥にある血管を止める。そういう具合に、今の状況と今後起こりうる危険を考え合わせて、瞬時に行うべきことが頭に浮かび対応できるのが、本当に優れた産科医です。

昔の産科医たちは、上司からこうした高度な技術を叩きこまれたものです。しかし近年は、産科の専門医を名乗る医師でも、普通の分娩と帝王切開はできるけれども、産科の救急対応は、専門医の資格取得にあたって最低限必要な数しか経験したことがない、そばでただ見ていたことしかない、可能なら対応したくないという人も増えているようです。

少々難しい話になるかもしれませんが、救急対応の実績や医師の経歴、特に執筆した論文などをよく確認し、自院での緊急帝王切開・緊急時の対応ができる産科医を選んでほしいと思います。

小川 博康
監修:小川クリニック院長 小川 博康医学博士/日本産科婦人科学会専門医

昭和60年 日本医科大学卒業。同年 同大学産婦人科学教室入局。 平成9年 日本医科大学産婦人科学教室退局後、当クリニックへ帰属。 大学勤務中は、一般産婦人科診療、癌の治療を行い、特に胎児診断・胎児治療を専門としていた。「胎児に対する胎内交換輸血」 「一絨毛膜双胎一児死亡例における胎内手術」など、世界で一例しか成功していない手術など数々の胎内治療を成功させている。

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