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正しい産婦人科の選び方

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「私だけは大丈夫」の思い込みが最悪の事態を招いた事例

先日、仲の良い知り合いのドクターからこんな悲劇を聞きました。

妊娠週数34週、妊娠9カ月になる区内の30代前半の妊婦さんが、救急患者としてその先生の病院に搬送されてきました。運ばれてきたときにはすでに出血がひどく、意識も不明瞭で一目で危険な状態とわかったそうです。

付き添っていた夫に急ぎ状況を確認すると、臨月になる前の今のうちにということで、関東近郊の温泉地に夫婦で旅行に行っていたとのこと。奥さんは旅行初日にすでに「お腹が痛い」という自覚があったのですが、「明日には帰るから」と我慢をしていて、いよいよ腹痛がひどくなり、帰宅せずにすぐさま病院に駆け込んだ、という経緯でした。

この女性は、常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)を起こしていました。これは、妊娠中に何らかの理由で胎盤が子宮壁からはがれてしまう怖い病気で、突然の激しい腹痛とショックを起こします。そして出血性ショックや出血が止まらなくなるために、最悪の場合は命を落とすこともあります。この場合も、医師の努力の甲斐もなく、母体死亡・胎児死亡というもっともつらい結末に至りました。

その急展開の事実を認められなかったのは、付き添っていたご主人です。「昨日まであんなに元気だったのに。ごく普通の妊娠でこんなことになるなんてあり得ない」といって、対応した医師をつかみかからんばかりに責め立て、激しく取り乱していたそうです。

腹痛という異常を感じた時点で素早く適切な対応をしていれば、母子ともに命を救えた可能性が大きいのに、それを見過ごしてしまったことが本当に悔やまれます。

そして、もっと根本を突き詰めると、妊娠中であっても「まさか自分(自分の家族)には悲劇は起きない」という油断が判断を誤らせ、行くべきではない旅行を計画するに至ったのかもしれません。

新しい命を授かって幸福感に包まれている最中、またこれからの生活や育児の未来に思いを巡らしているときは、命の危機など思いもよらないというのが、ごく普通の人の感覚かもしれません。妊娠中に「万一のとき」を考えすぎてしまうと恐怖感やストレスが募り、かえって良くないと感じる人もいるでしょう。

しかし、妊娠や分娩といった産科医療の最前線で30年以上、母と子の命に向き合ってきた医師としては、最近の「何事もなく産めて当たり前」という感覚は、むしろ危険だと感じています。そのような“安全神話”が広まるにつれ、この事例に代表されるような不幸なトラブルが増えているからです。

いつの時代も妊娠・出産は「気を引き締めて臨むべきもの」です。そのことをくれぐれも忘れないでください。

小川 博康
監修:小川クリニック院長 小川 博康医学博士/日本産科婦人科学会専門医

昭和60年 日本医科大学卒業。同年 同大学産婦人科学教室入局。 平成9年 日本医科大学産婦人科学教室退局後、当クリニックへ帰属。 大学勤務中は、一般産婦人科診療、癌の治療を行い、特に胎児診断・胎児治療を専門としていた。「胎児に対する胎内交換輸血」 「一絨毛膜双胎一児死亡例における胎内手術」など、世界で一例しか成功していない手術など数々の胎内治療を成功させている。

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