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母体の高血圧が母子に及ぼす影響

妊娠中に起こりやすいトラブルの一つに、「高血圧」があります。

高血圧の怖いところは、自覚症状がないことです。そのため「少し血圧が高いだけで、たいしたことはないだろう」と油断してしまう人が少なくありません。

しかし妊娠中の高血圧は、思わぬ疾患につながることがあるので、決して看過できません。つい先日も、高血圧があった妊婦さんが、命にかかわるトラブルに遭遇した例がありました。

Sさんは、30代後半の初産の妊婦さんです。

妊娠初期のうちは、血圧は正常の範囲でしたが、末期に入るころから徐々に血圧が上がりはじめました。また34週頃から、少し気になる体重増加やむくみも現れるようになり、胎児の成長も鈍ってきました。健診時にいろいろと説明・指導しましたが、Sさんはどうしても聞き入れてくれません。

「自分は順調に出産できるもの」――そう思い込んでいるSさんは強く抵抗されましたが、母体や赤ちゃんの命にかかわることをよく説明し、入院してもらって管理することになりました。

私どもの嫌な予感は、残念ながらこの後、的中してしまいます。

Sさんの血圧(最高血圧)は160以上に急上昇し、胎児の状態も心配せざるをえない状態になりました。そこで考えられる重症・疾患を考慮し、さらに術中・術後の対応も考えてすぐに準備をし、緊急帝王切開となりました。結果、Sさんはヘルプ(HELLP)症候群を発症していることが判明したのです。

ヘルプ症候群とは、妊娠高血圧症候群の重症例のような病気です。溶血、肝酵素上昇、血小板減少といった症状が特徴で、早い段階で適切に管理をしなければ、血管が詰まってしまう播種性血管内凝固症候群(DIC)などの合併症を起こすこともあり、気が付くのが遅れると死亡率が3割にも上る怖い病気です。

私は急遽、Sさんに帝王切開での分娩を指示しました。ヘルプ症候群などの治療は、妊娠を終わらせること、つまり、緊急帝王切開で胎児を出す必要があるのです。

順調に出産できるものと思っていたSさんは最初、強く抵抗されましたが、母体や赤ちゃんの命にかかわることをよく説明し、入院していたためすぐに緊急対応を行いました。しばらく入院管理を受けた後、Sさんも赤ちゃんも、なんとか無事に退院されました。

私たちはなんども、Sさんに血圧をコントロールし、体調を管理するようにと日々指導を繰り返してきました。しかし、Sさんには「自分だけは大丈夫」という慢心があったようで、私たちに隠れて焼肉やラーメンのような塩分の多い食事をとることも多く、なかなか生活を改善できなかったようです。

しかし、こうした「ちょっとくらいいいだろう」という油断が、妊婦さん自身や大切な赤ちゃんの命を危険にさらすこともあるのです。この事実を、すべての妊婦さんとご家族はしっかりと胸に刻んでおいてほしいと思います。

妊娠中の血圧コントロールの基本は、バランスのよい食事をとる、食べ過ぎを防ぐ、塩分摂取を控える、無理な運動を避けるといったことです。

食事や運動、睡眠といった生活習慣は一人ひとり異なりますから、その人なりの続けやすい方法を考えて、根気強く管理を行っていきましょう。

 

小川 博康
監修:小川クリニック院長 小川 博康医学博士/日本産科婦人科学会専門医

昭和60年 日本医科大学卒業。同年 同大学産婦人科学教室入局。 平成9年 日本医科大学産婦人科学教室退局後、当クリニックへ帰属。 大学勤務中は、一般産婦人科診療、癌の治療を行い、特に胎児診断・胎児治療を専門としていた。「胎児に対する胎内交換輸血」 「一絨毛膜双胎一児死亡例における胎内手術」など、世界で一例しか成功していない手術など数々の胎内治療を成功させている。

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