妊娠した女性には、身体的にも精神的にもさまざまな変化が起こります。
特に初めてのお産では、それまでに体験したことがない不調や苦痛に遭遇し、不安を感じたり戸惑うことも多いでしょう。しかし、そうした経験も、遺伝子に組み込まれた生命誕生のプロセスにおいて深い意味があるのです。
たとえば、妊娠初期に多くの妊婦さんが体験する「つわり」もそうです。
つわりは、早い人で妊娠5〜6週(妊娠2カ月)から始まり、長い場合は12〜16週(妊娠4~5カ月)ごろまで続くこともあります。症状がもっとも顕著になるピークは、平均7〜9週(妊娠2〜3カ月)ごろといわれます。
つわりの症状として有名なのは、吐き気や嘔吐、食欲不振などですが、反対に食べていないと気分が悪くなる、“食べづわり”や、好きな食品が食べられなくなったり、嫌いだったものが食べたくなるといった嗜好の変化もあります。ほかにも頭痛、全身の倦怠感、唾液が異常に多くなる唾液分泌亢進などもあり、症状の内容や程度は人によってかなり個人差があります。
超音波検査で妊娠を確認して喜んだのもつかの間、すぐにこうした不快症状に襲われ、体調不良から気分まで滅入ってしまう女性もいます。
しかし私は、妊婦さんからつわりの訴えを聞くと「気分が悪いの? つわりがあってよかったね」とわざとお話ししています。これは決して意地悪ではなく、妊娠経過のなかでつわりという“正常な反応”が起こることで、「母体の妊娠」を強く認識できるからです。
つわり自体は、なぜ起こるのか、その原因はまだはっきりわかっていません。
妊娠すると種々のホルモンが多量に分泌され、体が一時的に混乱して嘔吐中枢を刺激するという説や、母体が胎児を異物とみなす一種のアレルギー反応による症状ともいわれます。
私たち人間は、つわりのような症状でもなければ、自分の体が発する声に耳を傾けることなく無理な活動を続けたり、暴飲暴食をしたりしがちです。そうした体に悪い行動を抑制し、赤ちゃんの体の基礎がつくられる大切な時期に母体を静かに休めるために、つわりがあるのではないか、とも考えられます。
妊娠初期に食欲が落ちたり、何日か食べられないときがあっても、胎児に影響することはありません。多くの場合、一定の時期を過ぎれば食欲や体調は戻りますから、食べられるものを食べられるタイミングで口にしていれば、まず心配ありません。自然な反応を素直に受け止め、この時期を乗り切りましょう。
ただしごく一部ですが、つわりが極端にひどく、何週間も食事がまったくとれないケースもあります。尿検査をして、人間が飢餓状態になると出てくる物質(ケトン体)が出ているような「重症妊娠悪阻」の場合は、医療機関で必要な治療を受けましょう。